自分流泰的生活 web401号 muriさん
呼吸で奏でるケーンの魅力
ケーン(イサーン楽器)演奏者
muriさん
元ギター小僧がタイではまったのは、イサーン楽器 Khean(ケーン)。彼の演奏は、本場イサーンの人も目を見張るほど。そんな彼にケーンの魅力を尋ねた。
(演奏が終わり…)素敵な音色ですね! 通行人のタイ人もくぎづけでしたよ! それがケーンですか?
そうです。ケーンはイサーン地方の伝統的な楽器の一つで、千年以上も形を変えずに引き継がれてきたと言われています。竹の空洞を利用して音を全体に響かせて鳴らすもので、オルガンの起源だという説もあります。タイ、ラオス、中国のどこかで発祥し、シルクロードをつたってヨーロッパへ渡ったようです。
音の出る原理がオルガンと一緒ですね。ケーンを始めたきっかけは何ですか?
四年程前に、友達に連れられて行ったビアガーデンでイサーン音楽の生演奏があったんです。その時は、「変な音のする楽器だなぁ!」としか思っていなかったのですが、その後何度かモーラムパブ※1 等でも耳にするうちに、この変な音を出す竹の楽器が気になって気になって。自分で弾きたい!と思うようになり、教えてもらえる所を探しました。
ケーンを教えてもらえる所はすぐ見つかりましたか?
それが全く(笑)。どこの音楽教室にもそんな講座はなく、本当に苦労しました…。だって、ほとんどないんです! イサーン楽器を習うことのできる所って。そんな中で、タイ文化センターに行った時に出会ったのが、タイ音楽協会のポンラン楽団※2 だったんです。楽団に入ることができるのは、基本的に幼少〜高校生までの子どもだけなのですが、無理を言って特別に入れてもらいました。外国人は今は僕だけ。週一回のペースで練習しています。
ケーンを習得するのは難しいとよく聞きますが、練習は大変でしたか?
最初は苦労しましたが、練習は苦ではなかったです。学生の頃にバンドを組んでいて、いわゆるギター小僧だったんですね。寝るのも忘れて一日何時間も練習していたほどです。なので、ケーンも同じでした。基本的に、楽器っていうのは自分が好きじゃないとできないですから。ただ、今でも悩まされているのが、テキストやテープ等のお手本を探すのが難しいこと。今では演奏できる人も少なくなってしまいましたし。でも逆に言うと、「こうしなきゃダメ!」という規則もないので、それぞれ個性を出して自由に演奏できるのは良い点です。力任せにギュンギュン弾くのもあり! か細い音で柔らかく弾くものあり! つまり何でもありなんです(笑)。その柔軟性が、僕は好きです。
muriさんにとってケーンを弾く上で一番大事なことは何ですか?
何より大事なのは「呼吸」です。タイの人はケーンの音を聞く時に、「モォ・ケーン※3の呼吸を聞く」という言い方をよくしますが、その通りです。呼吸一つでこんなにも変わるのか! と驚くほど、呼吸が音色を左右します。その呼吸法を得るには、実際にやって自分で掴んでいくしかありません。イサーン音楽は、基本的に全音しか使わないシンプルな音でできています。なので、表現の幅は無限大。シンプルだということは、難しいことでもあるんです。
これからも、ケーンの良さを多くの方に伝えるべく頑張って下さい!
ケーンは、生涯通して長く付き合っていく楽器だと思います。高齢になってから始められる方も多いんですよ。日本の方やタイの方に限らず、イサーン音楽に触れられる機会がもっと増え、より多くの方に楽しんでもらえたらいいなぁと思います。
※1 モーラムのライブ演奏があるパブのこと。
モーラムとは、抑揚をつけた弾き語りのこと。宗教的な意味合いが強く、仏教の説法から生じたと言われている。村内での昔からの娯楽であるが、現在では ポップミュージック風にアレンジされたルークトゥン・モーラムが主流。
※2 ポンラン(イサーン地方の木琴)を中心に成り立つ楽団
※3 タイ語で「ケーン演奏者」の意
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